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8.ちょうちん

ある夜のこと。 お空の黄色いお月さんから、ぽろりと何かが転がり落ちました。 それをじっと見ていたきつねの子。シッポがぴんと「きょうつけ!」します。鼻がひくひく動きます。あれはいったいなんだろう、と考えているのです。 お月さんから転がりおちた、黄色い灯りは、とん、とん、と、二度空をはね、これが最後ともう一度、高く高くはねあがると、ストンとどこかに落ちました。 きつねの子は、おいかけます。遠くの山から母さんが止めますが、そんなの耳に入りません。 たしかここらあたりだぞ。きつねの子はのびあがり、あたりをぐるりと見渡しました。 すると、いつもは暗くて静かな神社の境内が、いくつものちょうちんに照らされて、黄色く輝いているのが見えました。ざわざわと人のたてる音がします。ああ今日はお祭りだ。あまずっぱい匂いがする。笛の音に太鼓、あれは射的の音かしら。 何かを追いかけてきたことも、すっかり忘れて、きつねの子はくるりと男の子の姿になりました。そうして祭りの人ごみに、するりとまぎれていきました。 おや、きつねの子がいるよ。神社の鳥居に、まあるい「祭」のちょうちんと並んでぶら下がっていた、お月さんの子が気付きました。おやしっぽがまる見えだ。しかし今宵は誰も気付くまい。なんてったって、お祭りだもの。ぼくのことも気付くまい。そう思うと嬉しくて、小さなお月さんはころころと笑うのでした。 作たみお

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