6. ちょうちんの恋
僕は提灯である。今は冬であるから山の倉庫にてジッとしているのである。骨のじゃばらをたたんで、体はまさにぺたんこである。夏が来て、威勢の良い誰かにむんず頭を掴まれ、体がにょっきと伸びるのを待っているのである。ぼくの体には、「つ」と書いてある。上の兄弟には「ま」とあり、末の妹には「り」とある。年に一度しか出番の無い僕らである。 冬にして僕はこっそりと願うことがある。恋がしてみたい。思い焦がれ、身をも焦がすようなやつだ。今夜みたいな、しんしんと雪のふる夜にはたまらなく思う。まっさらな僕の心を、黒く埋め尽くすような恋がしたい。 恋は人間サマのものだけじゃない。提灯だって恋をするのだ。今どこかの街で、これを読んでくれている君に、先代から口伝えで聞いた、恋の話をしたいと思う。 その提灯には「遠山」と文字が入っていた。遠山家の者がもつ手提灯である。夜道に迷わぬよう足下を照らし、道案内をする。この国に街灯などエレクトロニクスがなかった時代の話である。 「遠山」の提灯は恋をしていた。遠山家の娘に恋をしていた。娘の名前は「ゆき」といった。その名のとおり、白くはかなげな美しい娘であった。遠山の提灯は、ゆきの幼い頃から、彼女の父親のお供として夜道を照らし、門まで送り届けた。そして迎え待つ彼女の笑顔を確かめ、体の中の火を消した。 彼女の笑顔は美しかった。例えそれが自分に向けられたものでなく、帰宅した父親に向けられたものであっても、かまわなかった。その笑顔を見るために、内に灯る火を風で吹き消さぬよう、そっと守って添うた。 そうして数年過ぎ、またたくまにゆきは育ち、嫁入りの日が来るのである。提灯は自分の身をわきまえていた。この恋が実るはずもなく、想いに気づいた時には失恋の定めである。だからといって心を止められようか。何もかも遅かったのである。 白い肌に紅がまぶしい。嫁入り行列は盛大で「遠山」の提灯は先導の者の手に握られて、赤々と火を灯し、静かに揺られていた。ふと見上げると、白無垢姿の彼女が見える。たまらなかった。嫁にいくのか。もう帰っても居ないのか。しかしなんと美しい横顔か。幸せそうな横顔か。 提灯は夜道を照らした。彼女を照らした。精一杯照らした。なあ、そこの見送りの人よ、きれいだろう、きれいだろう。この花嫁は、僕が恋した人である。僕の恋しい人である。 そうして、その家まで彼女を無事に送り届け、その背中を見つめながら、ゆらり体を崩し、自分の身に火を点けた。火はパッと燃え移り、あっという間に骨まで燃やし、提灯の形さえ残らなかったという。 僕も恋がしたいと願う。けれども、難点は僕の体の内なる火が、電球であるということだ。ガラスに包まれたフィラメントでは身を焦がすに難しい。さらに最近はLEDとか現れて、熱くもかゆくもならぬそうな。 いったい恋心とはいかなるものか。 僕という提灯はまだ知らぬのである。 作たみお